2015年5月18日月曜日

太宰と私   梶野 稔(劇団民藝 俳優) 

  劇団民藝に入団する前に円・演劇研究所に入所し演劇を勉強したのだが、そこでは様々なテキストで演じる勉強をした。
 W・シェークスピア、テネシー・ウィリアムズなどは勿論だが、「三びきのやぎのがらがらどん」という絵本のテキストを4人で演じるというのもあったり多彩だったが、そのテキストの中に「走れメロス」の抜粋があった。
 「メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。」から始まる。
 演劇は戯曲の台詞、ト書きを役者が演じ、舞台美術、照明、音響効果などで劇場空間を作るもので、舞台を活字で表す事は不可能なのだが、この冒頭のシーンを演じたように文字にしてみると…。
 「(舞台奥センターに立ち、大きな声で)メロスはーーーーーーー!!(両腕を大きく振りながら)ぶるんと両腕を大ーきく振ってーーーーーー!雨中、(前方を指を指し)矢の如く走り出たーーー!(と言って走りだす)」と書いて見たが想像出来ただろうか?
 この後には「そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。」と言った後で歌を歌ってみたり「見よ、前方の川を。」の後は濁流になったり一人で「走れメロス」を体現したエチュードだった。
 その時は毎日朝から晩まで夢中で芝居をやっていたので「太宰が同郷だ」などと感慨深く思う余裕はなかった。しかし改めて今考えると同郷の太宰の文学の助けがあり、僕は演劇を勉強し今も役者を続けていられるのだと有り難く感じてならない。(演じるにあたって、改めて全文を読んだ時、外国人の作家の作品のように感じた想い出があるが、それは私だけだろうか?)
 最近も「走れメロス」に似たものを観た。
 それは昨年(2014年)、ゴスペラーズ坂ツアー2014  ゴスペラーズの『ハモれメロス』”だ。
 男性ボーカルグループのゴスペラーズは「ひとり」で大ヒットしブレイクしたが、その前は様々な試みをしていて、同じ早稲田大卒の演劇関係の人達と歌と芝居を織り交ぜたコンサートをやっていて、昨年11年振りにシアトリカル(演劇的の意)ライブツアーを行った。
 あらすじは、工場で働きながら音楽をやっている二人が、プロバンドの楽器をちょっと借りようと練習場所に忍び込み、盗むが捕まってしまう。被害を受けたバンドマンが警察に通報しようとするのだが、二人のうちの一人が「自分の妹が結婚式を長野で挙げる。行きたいから三日間待ってほしい。友達を人質にする。」と言うがお金が無いからバスに乗らず走り出す、というもの。
 走るシーンはルームランナーを使ったり、芝居の合間に歌があったりとても面白い作品だった。
 実は私も「走れメロス」を少し借用した小説をブログに書いた事がある。

 「小説 満州JIHEN」
 http://minotty.exblog.jp/15943637/

 阿久悠が優れた流行歌の条件の一つに「替え歌になるかどうか」というのがあったと記憶している。
 死後半世紀以上経った今でも、熱心なファンがいるのは優れた作品群があるからだが、「走れメロス」のように親しみを持てて誰でもパロディーを作りたくなる懐の大きさが太宰にあるからだろうと思う。(芥川の「蜘蛛の糸」もよく朗読のテキストに使われているがパロディー化された話は聞いた事がない。)
 太宰ゆかりのお菓子があるのも面白い。
 太宰が「生まれて墨ませんべい」を食べたらどんな感想を言うのだろうか?

  「メくてすみません。」とひどく赤面するに違いない。

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